寺ネット・サンガ “イキイキ”と生きるためのヒント ―お坊さんと楽しく語り合う「生と死」―

―お坊さんと楽しく語り合う「生と死」―

日蓮宗新聞社発行の雑誌『正法』141号の特集「エンゲージド ブディズム 社会参画する仏教 新たなる仏縁結びの形」に私が寄稿した記事が掲載されました。


現代葬儀事情

ここ十年ほど前から、お金のかかる葬儀はもう要らない、義理で葬儀に来てほしくないと葬儀が小規模化する傾向が目立ち始めました。そして「家族葬」「直葬」「散骨」「樹木葬」「永代供養墓」など、葬儀や埋葬の周辺には急速な変化が生じています。
その原因は、イエ制度の崩壊により、地縁血縁が崩壊したことが大きいといわれています。葬儀が地域の人や仕事上の付き合いなど「社会的な別れの場」から、家族中心の「個人的な別れの場」へと変化し、世間体を気にすることなく、「故人の遺志」あるいは「個人の意思」で、自由な葬儀を演出できるようになったともいえるかもしれません。
しかし、かつては村の長老が仕切って自宅から出していた葬儀が、葬儀業者主導による葬儀ホールを会場とした形になると、地域のつながりは薄れ、葬儀は商品化されていきます。葬儀業者はさまざまな付加価値をつけた高額商品を提示したり、逆に人件費をぎりぎりに抑えた低価格のサービスを提供するなど、葬儀が「弔うこと」とは別次元のビジネスに変容してきたともいえるでしょう。
また、僧侶の布施が高すぎるとお寺や僧侶への不満も目立ってきました。僧侶の側も、葬儀の意義を語るとともに、真摯に亡き方の人生に向き合い、真剣に仏さまのもとに送るよう努めることが求められています。
そのような流れの中で、平成23年に東日本大震災が起こり、葬儀をやりたくても物理的にできない状況や、死を受け入れられず心情的に葬儀をできないという人々の姿に影響されてか、葬儀の重要性が見直されてきました。災害や事故などの現場ではもちろんのこと、大切な人を失った方々にとって、葬儀は故人のためにできる最初の働きかけです。しっかりとお弔いができたと思えることで遺された人々は次の一歩が踏み出せるのだと思います。


エンディングブーム

人生の結末から逆算して、今何をなすべきかを考える「エンディング」が注目され始めたのも十年ほど前からです。元気なうちに葬儀や墓地の手配を行い、相続や遺言、介護や看護などについて意思を書き記す「エンディングノート」が多数発行されています。(『正法』誌でも平成二十五年夏号にエンディングノートの特集が掲載されています)
しかし、人生の最期「死」を考えるノートなのに、ほとんどのエンディングノートには、自分の魂の行き先や死後の世界について書く欄がありません。各宗派の僧侶が編集しているエンディングノートも多数ありますが、それぞれの宗旨に沿った教えが示されるところまでで、死後の行き先について自由に考えて書くことができる欄はありません。エンディングノートに限ったことではなく、人生の結末「死」について自由に語り合える場は多くはありません。
私自身も日蓮宗の僧侶として、法華経に基づく死生観は持っていますが、それを法話の際に一方的に伝え、相手がどう思うかなどということは考えずに、教義を押し付けていただけではないかと反省しきりです。おそらく世の中の多くの葬儀の場では、僧侶の一方通行の死生観の押し付けがまかり通っているのではないかと思います。葬儀に参列した方々も、僧侶の言葉を聞き流し、いざ自分が病気になったり、余命告知をされたりした際に初めて「死」と相対し、迷い悩むことが多いのではないでしょうか。
昨今のエンディングブームは、葬儀やお墓のことまでもが、お金にまつわる事柄として取り上げられ、魂・心・浄土・天国など霊的・宗教的な視点があまりにも少ないと言わざるを得ません。だからこそ、損得まみれの娑婆の垢をいかに払うか、「仏さまのものさし」を身に着けるために、新たなる仏縁結びの形が必要とされているのです。

寺ネット・サンガ “イキイキ”と生きるためのヒント サンガの活動1

サンガの活動1

寺ネット・サンガの発足

葬儀に関する価値観が多様化する中、寺ネット・サンガは平成20年に発足しました。宗派を超えた僧侶たちに加えてNPO団体や葬儀社、石材店、医療関係者・法律関係者など「生老病死」にかかわる異業種が交流しながら、孤独死・自死・貧困など社会問題にも対応できる「駆け込み寺」を目指してスタートしました。
しかし、それぞれに本業を持つ会員たちが、多岐にわたる社会問題に対応するだけのマンパワーはなく、平成22年に大きく方針転換せざるを得なくなりました。東京では菩提寺がない家庭が七割ともいわれています。お寺や仏教と出会う機会がない人たちとの縁結びをテーマに、僧侶と気軽に語り合える仏教サロン的な場として現在のサンガに生まれ変わりました。
ただし一方通行で僧侶の法話を聞くという形式ではなく、発足から二年間の経験を活かし、生老病死の現場にスポットを当てたテーマで一般人と各宗派の僧侶が気軽に話し合えるイベントを多数開催して今日に至っています。


『坊コン』しませんか?

寺ネット・サンガの定例会『坊コン』は、坊さんとコンタクトがとれる→坊コン、坊さんと飲みたい→坊さんとコンパ、そのような意味合いで楽しく学び人生に向き合う場所です。僧侶による「プチ法話」、僧侶と参加者が一つのテーマで語り合う「坊コン談義」、各宗派の僧侶が質問に答える「坊コンパネル」、ここまでを東京駅にほど近いレンタル会議室で行ない、その後有志による居酒屋での懇親会。これが『坊コン』の流れです。
これまで取り上げられたテーマは、
・お坊さんて何?
・死んだらどうなるの?
・私と仏壇
・今わの際に何思う
・戒名は要らない?
・どんなお墓で眠りたい?
・葬儀はなぜ嫌われるのか?
・死ぬ前に語られる後悔
・ご先祖さまって何?
・自分で書きたい自分の死亡記事
・あなたにとって浄土とは?
・自分のお骨の行方ついて考える
・あなたにとって修業とは
日常考えたことがない「生と死」にかかわるテーマについて、「プチ法話」で僧侶が問題提起をした後に、「坊コン談義」で僧侶と一般人が語り合い、「坊コンパネル」で掘り下げ、さらに酒を酌み交わしながらさらに議論を深めていく。ここまで僧侶と濃密に楽しく「生と死」を語り合う場は他にはないと思います。
しかも常に異なる宗派の僧侶が数名参加しています。ときにはキリスト教の牧師さんや神道の神職さんも参加します。そこではさまざまな宗教観・死生観・価値観が飛び交いますが、自然な形で融合していきます。日常生活に追われて心のゆとりを失った人や悩みを抱えた人も、多様な人と価値観に触れる中で不思議と救われていくようです。

寺ネット・サンガ “イキイキ”と生きるためのヒント サンガの活動2

サンガの活動2

そうだ!お寺にこう『仏教ひとまわりツアー』

寺ネット・サンガのもう一つの活動、『仏教ひとまわりツアー』は、個性的な活動をしているお寺を訪ね、宗派の違いや僧侶の心意気を感じ、仏教に触れる気軽な「プチ巡礼」です。坐禅・写経・写仏・声明など各宗派修行の入り口を垣間見る「プチ修行」、僧侶の「プチ法話」に加えて、「模擬葬儀」や「お骨の行方」など特別企画も多数あるお寺体験イベントです。
特別企画の内容を紹介すると、
・おくられびとによる納棺体験学習
・このお焼香の仕方で良いですか?
・どこまで安くできるか葬儀費用!
・各宗派葬儀式次第比較
・各宗派仏壇比較
・遺書を書く
エンディングノートを書く
・弔辞を書く
・樹木葬墓地参拝
・多磨霊園無縁墓参拝

さらには、各宗派の大本山を訪ね、修行僧に僧堂の生活を語ってもらう「各宗派大本山めぐり」も実施しました。訪ねたお寺は、
・日蓮宗大本山 池上本門寺
・真言宗智山派大本山 川崎大師平間寺
・浄土宗大本山 増上寺
・曹洞宗大本山 総持寺
各宗派の修行僧の言葉や立ち振る舞いから修行内容や教義の違いが、ストレートに伝わってくる企画でした。
実際に足を運んでみなければわからない僧侶たちの熱い息吹を感じられ、日本は仏教国であると誇らしく思え、仏教には力がある、お寺にはイキイキと生きるヒントがそこここ転がっていると実感できるツアーです。


この世のすべては妙法の中

日蓮宗の僧侶や檀信徒の中には、他宗派と仲良くしてよいのだろうかと疑問に感じる方もあるかもしれません。日蓮聖人が「念仏無間、禅天魔、真言亡国、律国賊」と諸宗を批判した四箇格言は有名です。法華経以外の経典では、お釈迦さまの教えの神髄が解かれていないので仏に成ることはできないといわれたのです。
法華経とお題目にはお釈迦さまのお悟りとその功徳がすべて含まれているので、サンガに集う人たちのなかにお題目を唱える者がいれば、すべては妙法の中に包まれ、仏に導かれていくと私は信じています。
この世のすべてが妙法=法華経の中にある。そのことに気づかせてくれるのが、さまざまな宗教観や人生観を持つ人々との交流の場です。各宗派の僧侶と「生と死」について語り合っていると、妙法の真っただ中にある自分と、妙法に支えられているこの世界を感じます。私は寺ネット・サンガの活動を通して、お題目によってイキイキと活かされているありがたさを、より一層感じられるようになりました。


寺ネット・サンガでお待ちしています

さまざまな宗派の僧侶、さまざまな価値観を持った人々との出会いが、新たな気づきを生み、視野が広がり、心を開放して救われていく。寺ネット・サンガは、「出会いの場」「気づきの場」「救いの場」という三つの理念のもと活動をしています。
興味をお持ちになった方はインターネットで『寺ネット・サンガ』と検索してみてください。ほぼ月一回のペースで『坊コン』か『仏教ひとまわりツアー』のどちらかを開催しています。

掲載誌について

正法 エンディング

寺ネット・サンガ代表 吉田尚英
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