死生観~寺ネット・サンガ「坊コン」死生観について 名取芳彦さん

死生観について 名取芳彦さん

寺ネットサンガが主催する、お坊さんと直接語り合える場「坊コン」が11月10日(火)日本橋にて開催されました。全6回で行われる坊コン「こんな供養は○○だ」の今回のテーマは『死生観』です。
本日お話くださるのは、江戸川区にある真言宗豊山派密蔵院の住職である名取芳彦(なとりほうげん)さん。名取さんと言えば、仏教のエッセー本を何冊も出版されているお坊さんです。東京小岩の下町生まれらしく、江戸っ子口調の語り口の法話はユーモアにあふれファンも多数。ご自坊ではご詠歌の会をはじめ、写経や読経、朗読会など様々な活動をされています。今日は「死生観」という難しいテーマの法話です。

********************************************
《真言宗 密蔵院住職 名取芳言さん「死生観」について》

「お釈迦様が出家した理由というのが「生・老・病・死」の「四苦」だと言われています。「苦」とは自分の都合通りにならないことで、その代表格が「生・老・病・死」。お釈迦様はそれを何とかしたいと思ったのでしょう。”「苦」を「苦」と思わなければいい”、つまり「自分の都合通りにしたいと思わなければ苦は減るじゃないか」というのが仏教の考え方となったのです」

江戸っ子口調の名取節で、競馬に勝つために俺も写経をしようかなと言った人に対して、「競馬に勝つために写経をするんじゃあないんだよ。競馬に負けても悔しくない心でいるために写経をするのさ」といった面白いエピソードに会場も大笑い。

「死後のこと」はお釈迦様もわからないと言っているというお話をされたのち、仏教以前の日本人の霊魂観念について曹洞宗の中野東禅先生の講義を参考にお話くださいました。
『死者は荒ぶる恐怖霊だが、時間をかけて浄化され(あるいは浄化し)草葉の陰や山の樹に住み、親しい祖先となって子孫を守り、さらに時間をかけて祖霊となって、時々山から戻ってくる』これらはフィリピンの漁労文化や北方の針葉樹林帯文化、華南の稲作文化などの複数の文化が混ざり合って出来上がった考え方なのだといいます。実は、私達がお葬式後に一般的に行っている百ヵ日忌や一周忌、三周忌などの追善供養は、道教や儒教の影響を受けながら日本独特の仏教になってきたものだそうです。東洋の果ての日本には、北からも南からも、さらには西の大陸からも色々な文化が流入して、私たちの死生観に影響を与えてきたのだとお話くださいました。

そのほか「三十三回忌」とは、故人が個性を失って祖霊の仲間入りをする時期。死者を供養するに当たり、霊に対して感謝型の供養と、霊の祟りを恐れ、恐怖霊を鎮める為に供養の二つがあること。名取さんご自身は、できれば「祟り型」よりは「祖霊感謝型」になって欲しいと思っていることなどを、わかりやすい例えと楽しい話術を交えてお話くださいました。

前半は「死生観」の「死」をメインに話をされ、後半は「生」についてのお話です。

名取さんはご自身が20代の頃、お母様が癌を患ったことをきっかけに「癌患者の会」に行ったそうです。そこで40代で癌になった若い僧侶の話を聞いたそうです。死を前に暗い顔をして沈み込んでいた彼が父親からの手紙を読んで勇気を取り戻します。その手紙には一言「生きてる間は、生きてるぞ」と書いてありました。今までの暗い顔を一変させて「生きている間は生きているんだ!」と笑顔になった若い僧侶のその言葉は、今も名取さんの心に響いているのだそうです。
そのほか、名取さんご自身のお父様が亡くなる直前まで書き残された、たくさんの言葉やを詩歌を素敵なエピソードと共に紹介くださいました。

名取さんご本人の体験や、ご身内の書を拝見しながら法話を伺っていると、お坊さんといえども、私達と同じ目線で「死」を見つめ、現在に生きる同志の一人なのだと実感しました。名取さんは一人の宗教者でありながらも、私達在家の方へ歩み寄ってくださっているのを感じたひとときでした。

死生観~寺ネット・サンガ「坊コン」供養の事例~死生観 樋口清美さん

供養の事例~死生観 樋口清美さん

【供養コンシェルジュ 樋口清美さん】

私の15年間の仕事の中でも、ご自分の死生観を持っていた方はほとんどいません。その中で印象に残っているのは「死んだら無になる」と言い切った男性でした。
死生観」を考えるとき、自分のことと、亡き人のことを別に考える人が多いと感じています。
自分のことは“死んだらどうなるかわからない”、”死んだら人に任せる”というご意見が多い傾向にありますが、亡き人のことや、他者の死については、“あの人の為に何かしたい”、“亡くなった方に悪いから”などと思う方が多いようです。
このように自分の死と他者の死への思いには隔たりがあることに気が付きました。昨今は終活ブームですが、家族と自分との想いに乖離があり、統合されていない気がしています。

ご紹介する相談事例は死後に魂があると考える方からのものです。これらの質問に回答する際には、私個人の意見は述べないようにしています。サンガで伺ったお坊さん達の言葉をそのまま伝えるようにすると皆さん大変納得していただけます。

(良くある質問の一例)
・魂はどこにいっちゃったの?
   位牌を作らないと(故人の魂が)迷っってしまいますか?
   お骨を家に置いておくと(故人の魂が)嫌がりますか?
・供養が届きますか?
   このやり方でいいのですか?
・亡き人の想いが知りたい
   亡き人への後悔の思いが強い方は霊能者やイタコのところへ行くこともある。


○グループディスカッション
「あなたの中に生きている亡き人の言葉や思い出」をテーマに4グループに分かれてディスカッションをします。グループに必ず一人はお坊さんが入ります。気軽に話し合えるグループディスカッションですが、話したくない場合はパスが出来るルールがあります。

各グループごとにお坊さんが意見をまとめて発表しました。
・「同行二人(どうぎょうににん)」という言葉のように、自分の中にいて、辛い時は支え、傲慢な時には律してくれる存在だ。
・漫画「火の鳥」に出てくるコスモゾーンのように、死んだ後は世の中のあらゆるものの中に入っていくのでは。
・マザーテレサの「人は何かの役に立つために生きているのだ」という言葉に感動した。
・先輩の言葉「悩みがあってきた人が必ず笑顔で帰っていくのが私たちの仕事なのだ」が自身の人生を支えている。
・お釈迦様の言葉全部が支えになっている。
・亡くなった後にも「死に方」「生き方」が子へと繋がっていくのだ。
・母の優しさが今の自分に繋がっていると感じている。
・生きてきた証として「何かを残したい」という思いがある。
・亡くなった人へ「こういう言葉をかけておけばよかった」など後悔がある。
・故人から言われたことをいつも考える。

死生観~寺ネット・サンガ「坊コン」質問コーナー 死生観について

質問コーナー 死生観について

Q, お坊さんから樋口さんへの質問
「死んだら無になる」という人たちはどういうお葬式を望んでいるのでしょう?

A, そういう考えを持っている方はほとんどは散骨を申し込むことが多いです。お墓がある方に「死んだら無」という方はあまりいないですね。

Q, 参加者からの質問
そもそも「死生観」って何ですか?お坊さんはどう思っているのでしょうか?

A1, 辞書(新明解国語辞書より)で「死生観」を調べると
① 生ある限りは充実した毎日を送っていこうという抱負。
② 人生の終末としての「死」についてのその人の考え方。
死についての「理想」と、死についての「観想」というように、実は「死生観」という言葉にこの2つの事が含まれてしまっている。ある人にとっては死についての観想(過去のこと)なのに、ある人にとっては理想や抱負(未来のこと)でもあるわけです。前提としてこの2つが入ってしまっていることから、皆がどっちを言えばいいかわからなくなるし、そもそも「死生観」ってなんぞや?となってしまうことが辞書からもわかります。
縦軸で見ると、死についての「理想」と「観想」は「未来」と「過去」ともいえる。また、横軸で考えると「自分」と「他人」とも言える。どの立場に立つかで「死生観」が変わってくる。だから「死生観」を語ると言われた時に、どの視点で話したらいいのかわからなくなるのではないか。

A2, 恐らくお釈迦様は「生」については「苦」を少なくしていこうということ。「死」については答えを言っていない。しかし仏教の立場では死後世界をロマンとして多くの人達が作って来たし自分もその現場にいる。

A3, 死の向こう側からこちら側を見る、というようなこと。死の向こう側から、走ってくる様を見るような、俯瞰するような見方で「生き方」を見つめるということでしょうか。ゴールの一歩向こう側から見た世界観を見せるのが我々の役目なのではないかと思っている。

A4, 生きているうちから仏と一体になるように努めているので、死は決して終わりではないと考えている。死は生の延長だと思う。「死んだら仏と一体になるのだから安心していいよ」という思いを伝えたい。。

A5, 死生観とは人生観に近いように思っている。自分はどう生きていくのかなど。さらに自分の「死」を考えた上で人間の死とは何だろうと「死」全体を考える。

○まとめ
死生観」というテーマならではの様々な視点からの考え方、意見が話し合われました。日頃から抱えていた疑問をお坊さんに伺うことで、また一歩深く「死生観」を考えるきっかけとなったように思えます。今回の寺ネットサンガの坊コンはいつにも増して白熱した議論となりました。

坊コン

死生観 サンガ

過去のイベント